傍にいてほしい

駅までの道に銀杏の葉が落ち始めました。12月になったと感じます。もう一年の最後です。

「愛する人が傍にいてほしい」

健康な30-60歳台の男女のどんな人生の最後を迎えたいかという質問への答えです。多くの人にとって、叶えることはなかなか難しいのが現実です。

その患者さんは私の5歳からの幼馴染でした。当時のお母さまの許可を頂いて記載させていただきます。

フランス人形のように美しい色白のA子ちゃん。二人の時は故郷の話をしました。少しずつ話す力が弱くなり無表情になりました。

お母さまが慌てていらっしゃいました。「主人のBさんが1週間外国の学会に行くと言って帰りました。その後からあの子は何を聞いても返事をしない首も振らない。様子が変なんです。」Bさんを探してお電話しました。

「彼女が仕事を優先して、と強く言うので。本当の気持ちが分からなかった。キャンセルします。」

「行かないで傍にいたい、と戻ってきたらその瞬間、A子がぱあーっと微笑んだんです。」と。最後は手を握り合いずっと隣に寄り添っておられました。

A子ちゃんは20年以上米国に住んで大学で教えていました。前の御主人と別れて帰国したのです。Bさんと結婚して幸せになったばかりでした。

A子ちゃんが亡くなった数日後、米国から国際電話がありました。

「お繋ぎできません。」それでもA子の主治医ですからと。「いずれにしてもお繋ぎできません。ここにはいらっしゃいません。」

突然、受話器の向こうで沈黙があり、声を殺して泣いています。そのまま電話を切りません。私は失礼しましたと静かに受話器を置きました。