日の出
自宅の私の机の上には、クロウド・モネの「印象・日の出」からの絵がかけられています。
印象派の始まりのものであり普遍的であり、フランスの再生を表していると言われます。
私は、どんな時も、この絵に励まされてきました。
この絵と出会った頃から、私の医者としてのポリシーは変わりません。
それが記載されている文章を、「リーダーは95歳」の中から、ご紹介します。
患者との想い出 P49
市丸みどりは、ターミナルケアの医師として、さまざまな死と直面してきた。ホスピスで看取った患者は七〇〇~八〇〇名に及ぶ。代々医者の家系で、父親の志を受け継ぎ医師になった。
飾らない笑顔と肩肘を張らない素直な性格が印象的な人である。重労働のホスピス医療の仕事を続けながら、二人の娘を育て、その娘たちも母と同じ医者を目指す医学生である。
内科医時代、よく言われた。「治らない」最期が誰でもやってくる。そのときになったら、医療者は「お手上げ」だと。市丸は、その時からこそ医療が必要なのではないかと思った。
「苦痛を卵にたとえると、殻が社会的苦痛、白身が身体的苦痛、黄身が精神的な苦痛、芯が魂の苦痛と言えます。卵すべての苦痛を緩和するには、医療者だけでも、家族だけでも駄目なのです。(略)患者さんに関わるチームのメンバーが互いに話し合い、力を合わせること。チームは黒子ということ。この二つの認識が大切なのです」
医師は、病気だけを診て、物理的な治療を施すだけが仕事ではない。聖路加国際病院の目指す医療は「全人的医療」である。医師は病の治療とともに、患者の幸福を第一に考えて適切な判断を下さなければならない。患者第一の姿勢はいかなる場面でも崩さずに、最期まで患者の立場で痛みを抑え、話を聞き、患者を守りきるのが使命だと考えている。
主役は患者とその家族、黒子は団結して、心を尽くしてその傍らにいる。最期のときまで、「もう決してあなたを苦しませない」その想いが市丸の医療のポリシーなのである。