笑顔って

Aさんは都下の駅に隣接する高層マンションに、ひとりで住んでいます。
財務省のお役人だったご主人にがんが見つかったのは、退職の直前でした。
3年間の闘病のころから、A子さんは胸に痛みが起こるようになりました。

仲の良いふたりだったのでご主人が亡くなってからは、胸の痛み、動悸のほかにも、のどの詰まり感が毎日夕方から眠るまで起こります。

「主人の亡くなった病院の前を通ることができない、乗ったバスも見たくない」銀座の診療所に、生活習慣病と胸やのどの症状を訴えてこられた時のご様子です。


感染拡大により、「ステイホーム」が始まりました。専業主婦だったA子さんが、唯一、その町で週1回留学生のお世話をしていたボランテイアが、無くなりました。月1回友人が誘ってくれた子ども食堂も作らなくなりました。ヨガ教室も休みになりました。

「主人の写真と話す以外誰とも話さないんです。毎日一回の散歩、何も買わなくても、マンションの9階から1階にあるスーパーまで階段をおりるようにしました」

のどの詰まり感は耳鼻科に何か月通っても治りません。胸痛も不整脈も消えないので総合病院で調べて明らかな異常はありませんでした。

初春の頃です。
「仕事します。シルバー人材センターに申し込みました」
「朝7時半から1時間、昼は2時間、小学生の渡る道に、旗を持って立つんです」
「往復6000歩歩くようになりました。近所の人が雨の時は傘とか、トイレに、とか声かけてくれるんです」
「会話をすると顔の筋肉を使うんですね」

胸痛はニトロをのむことはなくなり、喉の詰まり感は消えました。

「主人が人のためになる仕事を、って言ってた同じ目標だから、きっと安心してくれてると思うんです」

「子供の笑顔ってすごいです。ひとりだと笑顔になるときがなかったから」
そう言ったA子さんも笑顔で輝いていました。


教文館ビル9階で催されている”生きるよろこび展”です